プロジェクトの概要

周辺県の一部を含むカイロ住民の生活圏、つまり大カイロ―以下、カイロ圏と呼ぶ―は、現在、人口2千万を抱える世界でも有数なメガポリスである。カイロ圏は中世以来の長い歴史をもつが、20世紀末から21世紀初頭にかけて開始された社会経済のグローバル化のなかで、これまでの歴史にはみられない大きな転換点を迎えた。

つまり、それまで、カイロは常に人が流入する空間であったものが、人口の流入減少が始まり、カイロから周辺の砂漠地域の副都心、衛星都市、さらには地方都市への流出増加が始まったのである。こうした、カイロをめぐる人口移動が示すように、20世紀初頭のカイロ圏は、生活空間としての臨界点にあったと考えられる。実際、当時、都市景観は変貌し、劣悪な交通事情や都市公害は、後戻りできないほどに顕在化していた。

このカイロ都市事情の大きな転換期である2001年10月1日、JICA(国際協力機構)によって、カイロを対象としたパーソントリップ調査が実施された。パーソントリップ調査とは、都市における人の移動に着目し、「世帯や個人属性に関する情報と1日の移動をセットで尋ねることで、「どのような人が、どのような目的で、どこから どこへ、どのような時間帯に、どのような交通手段で」移動しているかを把握する」調査である(国土交通省のホームページ)。

それは、交通実態調査とも呼ばれているように、アメリカで、増大する自家用車利用に道路供給が追い付かないことを背景に、公共交通と併せた輸送計画の最適化を探るために考案された。カイロでの調査も、同じ目的から実施された。このように、パーソントリップ調査は交通計画や都市マスタープランの策定などの実務的な目的をもつ調査であるが、その調査結果は、「人の流れ」に注目した消費者モデルやインフルエンザ感染経路のシミュレーション研究などの学術的研究にも使われてきた。

本プロジェクトで分析の対象とされるのは、2001年10月1日にカイロで実施されたパーソントリップ調査で収集されたデータである。それ以前の1966年と1989年にも、JICAによってパーソントリップが実施された。しかし、この2回のパーソントリップ調査で収集されたデータは公表されていない。また、2001年以後、現在(2021年)まで、パーソントリップ調査は実施されていない。そのため、2001年のパーソントリップ調査データを使って、カイロ圏の生活事情での変化を時系列に追うことはできない。

しかし、2001年のパーソントリップ調査データは、調査サンプル数が12万にも及ぶビッグデータであり、このような規模の個票調査は、カイロでは稀有な例である。さらに、そこには、サンプルの個人属性や一日の生活パターンについての詳細な情報が含まれている。幸いなことに、2001年のパーソントリップ調査データは東京大学空間情報科学センターに所蔵され、利用可能になっている。

以上から、2001年のパーソントリップ調査データは、カイロ圏における交通網再編のための基礎データ収集という目的を超えて、当時の日常生活圏としての大カイロ(グレーターカイロ)の範囲、そこでのさまざまな属性を持つ住民の生活洋式を知るための貴重なデータである。そのため、このビッグデータ解析に、人口統計を中心とした社会経済統計分析や、GISを使った地図を始めとした地理情報、写真、絵葉書などの画像資料解析を結合することによって、21世紀初頭という変革期における大カイロ生活圏に関する画期的な地域研究が期待される。

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